人生初のアンチが生まれたあの夏
お題「【部活動の思い出】辛かったこと、楽しかったことなど... 文化部・帰宅部・運動部問わず」
「この子が着てきた色を〜、次の日着てくればぁ〜、被んないでしょ?」
着替えに使っていた2年A組の教室の空気が一瞬にして凍りついたあの瞬間のことを、毎年この季節になると思い出す。
高校1年の頃、バトン部に入っていた。いわゆる強豪校。ただでさえ部則や上下関係が厳しい中、私達の学年は横の関係でもギスギスしていた。
バトン部には部活のTシャツが8〜10色ほど存在しており、高1の夏はまず全員で同じ組み合わせの4色を買った。その4色を毎日着回すわけだが、私が着た色を必ず翌日に着用するメンバーがおり、不思議には思いつつも、特に気にするわけでもなく過ごしていた矢先。
とある夏の日のことだった。
「この子が着てきた色を〜、次の日着てくればぁ〜、被んないでしょ?」
彼女は私に聞こえる声量で、他のメンバーにこう言っていた。たしかに仲は良くないし、決して好かれてはいないだろうということはわかっていたが、たった4色しかないTシャツを絶対に同じ日に着たくないくらい、しかもそれを悪びれもせず言えるくらい私のことが嫌いなんだろう。まあショックだった。べつに喧嘩をしたわけでもない。そもそも喧嘩をするほど彼女ときちんとした会話を交わしたことすらない。なのにそこまで嫌われているのだ。
しかし同時に、ある光景が頭に浮かんだ。
帰宅した彼女が、翌日の準備をしながら、「受理子は今日ピンク着てたな。」と思い出し、私が着ていた色のTシャツを学校指定のカバンに入れる。
そこまでして嫌っているはずの私のことを、わざわざ帰宅後に思い出している矛盾。
やっていることが、アイドルの配信に誹謗中傷コメントをするアンチと同じなのだ。
嫌いなのに(あるいは嫌いという前提なのに)、わざわざ時間を割いて配信を観に行ってしまう。
当時の私はまだ音楽活動などしていなかったが、今思うとあれは人生初のファン・・・と紙一重のアンチだったのかもしれない。
実はこの後日、1年生オンリーで臨時のミーティングが開かれた。
内容は、「受理子と仲良くしてあげようよ」というもの。Tシャツの彼女の言動は水面下で広まっていたようで、模倣犯が複数発生していたらしい。
ミーティング主催の子が、「ぶっちゃけ、受理子とTシャツ被んないようにしたことある人〜」と言うと、わらわらと8人ほどから手が挙がった。ゴキブリは1匹出てきたら100匹いるというのはそういうことか。
比較的仲が良いつもりでいたメンバーまでもが含まれていた。今思うと、救済に見せかけておきながらも加害性を孕んだミーティングだったが、最終的にそれがきっかけでアンチTシャツ事件は幕を閉じ、同学年同士でのギスギスした空気も表面的には多少緩和されたので、意味はあったのだと思う。
とはいえ、高校などとっくの昔に卒業し大人になった今でも、バトン部で彼女らに言われたこと・されたことは忘れないし許せない。
なーにが、「てか目ぇ開いてるぅ〜?」「眩しいのはみんな一緒なんだからさあ〜」だよ。
地獄で太陽に焼かれろ。
大丈夫。彼らは奪えない。ただ、妬むだけ。