獅子座の女と連絡が取れない-後編
前回までのエピソード↓
21時を過ぎたころにAちゃんから来たLINEの内容はこうだった。
「休んでられないくらい仕事の山。
新人のときはいつ代休とる?とか聞いてもらえたのに年次上がるごとに代休はとれないもの有休は消えるものみたいになってくる、、、」
キャパオーバー前提の仕事量で、休みも年々取りづらくなるのだという。身バレしない程度にお伝えするが、彼女の職種はSE(システムエンジニア)だ。これがIT業界の現実の一部であるらしい。入社1年目こそ、研修だとか、OJTのイケメン先輩とのプロジェクトがどうこうとか、同期の男の子のギャグ話とか、社食での飲み会とか、いわゆる社会人を楽しんでいる様子が伺えたが、業界が業界だし彼女はもともと繊細で、どちらかというと私寄りのタイプだから、すっかり疲れてしまったんだろう。
人間、疲れて表面が剥がれてくると本来の内面が見える。
彼女はこう続けた。
「専業主婦にはなりたくないと思ってるんだけど、今の仕事ずっと続けるのはきついわ。」
これだった。
この一言がきっかけで、私は彼女に同情できなくなった。その1年前、心身の疲れが露わになった私に病院へ行けと背中を押してくれた彼女を、今度は自分が支えようと思って愚痴を聞いていたけれど、このセリフは流石に耐えられず、とうとう私も反論した。
「いいじゃん逃げ場所があるんだから」
「寿退社?笑」
「逃げ場所がない人は一人で生きることを考えて、仕事変えたりしてるよ」
正直に言うと妬みもあるが、仕事が辛い・辞めたいという、大げさに言えば人生の岐路に立たされた際に、彼氏がいて、結婚という選択肢があるにも関わらず、「専業主婦にはなりたくないけど今の仕事続けたくない」などと言うのはただの贅沢ではないか。
それも、仕事を辞めていろんな意味でフリーな私にそんな贅沢な悩みをぶつけるとはいかがなものか。
結婚を選択肢に入れるつもりがないなら彼氏の有無に関わらず転職活動すればいいでしょ!!!
ツッコミどころは満載だったが、そこに自分の嫉妬心も混じっていることに悶々としながらトークを続けた。気に食わないのは彼女も彼女なりに正論を吐くところだった。
「逃げ場所でもないと思うけどねw
先輩みたいに3歳児いるのに別れる人もいるし」
語尾に草をつけるほどの余裕ぶりである。
私はというと、もう嫉妬心丸出しのヤケクソだった。
「贅沢。人生が豊かで羨ましい」
このストレートな感情投球をAちゃんは
「結婚=幸せでもないと思うけどね」
打った!!正論のホームラン!受理子、ここから巻き返せるか!!!!
「それはその通り。選択肢が1つ増えるだけ。」
取った!!!!受理子、正論のホームランを片手でキャッチ。
「てか仕事も結婚もどれがいいとは言えないけど、新橋で飲んでべろべろになって大声でしゃべってるおっさんたちは本当に不幸なんだろうなと思う。ただただ汚い。」
突然の変化球・・・どうする受理子。
「勝ち組だよ。あの人らは酒飲める時間に帰れる。」
おっと!ここは冷静に対処しました。先日ツイッターで、新橋で酔っ払っているおじさん達は酒を飲める時間に帰れるようなホワイト企業に勤める勝ち組なのではないか、という投稿を見かけたのを思い出したようです。それに加え、受理子もかつて新橋で飲んでいた時期がありましたから、新橋に汚いイメージを持たれるのは自分を否定されるようで許せなかったのでしょう。お見事!
A:「あ、そうか。」
私:「財力あるから(新橋で酔っ払ってる)おっさんたちは既婚者。」
A:「財力あってもこいつらに触れるのは嫌だなwww」
今度は草3つ。普段スラングをほぼ使わない彼女にしては大草原である。
しかも話が噛み合っていない。軌道修正のため、もう一度ストレートな言葉を投げた。
「(結婚を)選ばないにしても選択肢が増えるってことの贅沢さは分かるべきでしょうよ」
「まあね」
まあね・・・??
何してる!正論のホームラン打てよ!!!もう屁理屈でもいいから何か言えよ!
いいか、もう一度投げるから次は反論しろよ?
「人に認めてもらえない寂しさと屈辱感を抑えて働いてる女性もいるんだから」
(1分後)
「世の中不公平だね」
それだけかよ・・・
これにて、試合終了。最後はAちゃんの棄権により、勝負がつかなかった。
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数か月後、このやり取りを星占いに詳しい友人、ポンに話した。
(※ポンは占い師ではなく普通のOL)
ポンいわく、Aちゃんの星座である「獅子座」はプライドが高く王様気質で、対する私の星座「水瓶座」は自由でプライドがなく*(1)、吟遊詩人の気質だという。
「『専業主婦にはなりたくないけど仕事続けたくない』って贅沢だと思うの。」
という私の言い分に対して、ポンはこんな見解を述べた。
「そもそもね、王様が吟遊詩人になに相談してんねんって話なのよ。」
国のトップでもある王様が、身分すら持たないような旅人に自分の恵まれた環境における悩みを相談する。全く違う国の者同士なら友達になれそうだが、同じ国で同じような学歴で、中途半端に共通点があるからこそお互いの差が顕著に見えて、相談なんかされても嫉妬が生まれるばかりだ。
「『どうしよう、貴族の作る飯が不味いんだけど、自分で作るのもめんどくさい・・・』とか相談されてるようなものかな?」
「そうそう、そんな感じ。」
たしかに、Aちゃんの妹さんから以前、お姉ちゃんは家ではすごくプライドが高いのだと聞いたことがある。これが獅子座なのか。サンプル1人だけど。
先日、そのAちゃんの妹さんとまた会う機会があり、Aちゃんの近況を聞いたところ、転職を考えた時期もあったが今の仕事は精力的に続けているという。元気そうでよかった。
8月だ。獅子座のAちゃんがまもなく誕生日を迎える。
百獣の王の気質で、“生き残りたい”。
May'n/中島愛で、「ライオン」。
*(1)みずがめ座はプライドがないという見解について。「吟遊詩人としてのプライドはある」とのこと。会社のトップに立ちたいとか世間的なものではなく、自分らしく生きることに対してのプライドはある。