ボーイミーツガールのスカート
母が、「あずさワイン買ってきて」と父に頼んだら、“あすだワイン”を買ってきたことがある。
“あずさ”ワインは無添加が売りのワインで、わりとポピュラーなものらしい。
↓“あずさ”ワイン。母が欲しかったもの。
一方、“あすだ”ワインは西友が直輸入しているワインであるらしく、正式表記は“ASDA WINE”。
↓“あすだ”ワイン。父が間違えて買ったもの。
よくそんな似た名前のワインが共存してるもんだと驚くばかりだった。
普段ならけんか祭りが起きそうなところだが、このときばかりは父も母も笑いながら、「何それそんなのあったの囃子」を奏でていた。
母の滑舌が悪かった、似た商品を置いた西友が悪い、
の2つでASDA WINE事件は示談が成立したが、日常で起こる聞き間違いは滑舌云々ではないところに原因がある場合が多い。私が思うに、以下の条件に2つ以上当てはまる場合に聞き間違いが起こりやすい。
①イントネーションが同じ
②頭の音またはアクセント箇所の音が同じ
③話の受け手が話し手の指しているものを知らない
④同音異義語またはイントネーションの類似した言葉で捉えている
ASDA WINE事件では①~③が当てはまっている。
①イントネーションが同じ
→あずさワインとあすだワイン。口を閉じて発音してみると同じ音程になる。
②頭の音またはアクセント箇所の音が同じ
→どちらも「あ」で始まる。
③話の受け手が話し手の指しているものを知らない
→一番の原因はこれである。
私は母が「あずさワイン」をグラスに注いでいるのをよく見ていたから、多少滑舌が悪くとも「あー、いつものあずさワインね。」と理解できる。しかし父は家にいる時間が少なく、母が何のワインを飲んでいるのか知らなかった。母が「あずさワイン」という名前のワインを飲んでいることと、あずさワインの存在そのものを知らなかった父にしてみれば、母の滑舌・発音が全てなのである。
さて、聞き間違いが起きやすい条件は上記4つのうち、2つ以上当てはまる場合だと前述したが、①のようにイントネーションが同じというだけでは聞き間違いは起きない。
例えば、
「東京テレポート」(りんかい線の駅)と「全然寝れねーじゃん」
何言ってんだこいつ…と思うならぜひ口を閉じて言ってみてほしい。同じ音になるから。しかし、こんなに違う言葉を聞き間違えるのはそれこそ全然寝てない人だろう。
大学名だとこんなのがある。
一文字多いが「慶應義塾大学」もモゴモゴ言えば似る。
「中央大学」と「東洋大学」、法政大学あたりも口を閉じれば似ているが、漢字2文字系の大学名は挙げるときりがない。
逆に「早稲田大学」は似た音の大学がない(たぶん)。
ダ行が苦手な人は多いが、「わせららいがく」とか言っても早稲田大学だと伝わりそうだ。
最後に、私が出くわした聞き間違いを紹介しよう。
私は日テレでやっていた「地味にスゴい!校閲ガール河野悦子」というドラマが大好きだったのだが、そのオープニングで石原さとみが履いていたのとそっくりなスカートを近所のお店で見つけたときのこと。
出版社勤務ではないけれど、これを履けば自分も「えっちゃん」になれると思い、興奮気味に「これ!校閲ガールで石原さとみが履いてたのと似てますね!!」と店員さんに言った。すると店員さんは、静かにこう答えた。
「私その、“ボーイミーツガール”観てないのでわからないです。」
は??
と思ったが、なるほどたしかに“つガール”の部分が一致。イントネーションも一致。
ついでに校閲ガールの存在を知らない。①②③により、これは起こるべくして起こった聞き間違いである。
証明以上。
しかしそれでも、下がり始めたテンションを保って試着室に入った。
全然似合わなかった。
Boy Meets Girl ロマンスの神様 この服じゃないね
店員さん、“週休2日しかもフレックス”なところで働けばドラマ観る余裕もできますよ。
ちなみに後で調べたら、石原さとみが着ていた本物は全く別のブランドだった。