富士そばは優しい
友人と富士そばに行った時のこと。
食券を持ってカウンターに行くと、白い割烹着を着たおじさんに
「そばですか?うどんですか?」
と訊かれた。私が購入した食券はカツ丼だったので、カツ丼はそばなのかうどんなのかを0.7秒程度で熟考した結果、
「えーっと、丼です。」
と答えた。カツ丼のカツの衣部分はうどんの材料と同じ小麦粉だけれども、カツはうどんではないし、言うまでもないがそばでもないと判断したためだ。そもそもカツ丼のメインは米である。
「そばですか?うどんですか?」
「丼です。」
「そばかうどんかって訊いてんだろうが!!馬鹿野郎!!」
という展開になるのを恐れていたが、じゃあそちらでと、丼ものカウンターへ案内されるだけで済んだ。
「丼(どん)です。」と小さな声で言ってしまうと、「うどんです」を「ぅどんです」と言ったように聞き間違われるのではないかいう懸念もあったが、私はアナウンサーのごとく明瞭に「どんです」と答えたため、その心配も無用だった。
その後もカウンター兼調理場の前で続いていた、
「そばですか?うどんですか」
という台詞。その響きに、どうも聞き覚えがあった。
「事件ですか?事故ですか?」
110番通報したときのあれだ。
以前から疑問に思っていたが、素人が事件と事故をとっさに区別することなどできるのだろうか?
例えば、
①横断歩道で歩行者と大型ワゴンが接触し、歩行者が意識不明。
→これは明らかに事故。(事故に見せかけた計画的犯行である可能性は考えないものとする)
②自転車同士がぶつかり、2台とも横転、片方が怪我。
→これも事故。
③ながらスマホをしていた歩行者同士が正面衝突。二人とも無傷だが、ポケモンGoをしていた方がレアなポケモンを逃してぶち切れ、けんかに発展。
→事件?ぶつかっただけなら単なる事故であり、通報も必要なさそうだが、けんかに発展し殴り合いにまでなるとこれはもう、事件?
とはいえ、「事件です」の回答は素人には重過ぎると私は思っている。事故ではないなら消去法で事件と答えるしかないが、これは何とも勇気が要るものだ。
そもそも、事件と事故というのは境界線が曖昧だ。事件は事故であり、事故は事件である。事件に巻き込まれるという事故、事故に巻き込まれるという事件。
③の場合は、事故をきっかけに事件へ発展。(そういう無駄なことばかり考えるから仕事できないんだよ)
人生において、通報するという経験はそう多くはないだろうが、ゼロとも限らない。
いざ通報することになったとき、あなたは事件と事故をとっさに判断できますか?
それに比べれば、そばとうどんと丼の違いは明確でよろしい。材料も麺の太さも違うからだ。
そして何より、「そばですか?うどんですか?」の問いに「丼です」と第三の選択肢で答えても怒らない富士そば、優しい。
「そばですか?うどんですか?」
「事件です。」
これはさすがに怒られるだろうな。
事件は富士そばで起きてるんだ。
織田裕二withマキシ・プリーストで、「Love somebody」